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「みたて」から始まる支援【多様な学びを探しに行こう!in原宿2026レポート】

「この子は、どうしてこんな行動をするんだろう」

「わがままなのか、それとも本当に困っているのか」

子どもと関わっていると、そんなふうに迷うことがあります。では、どうすれば良いのか。

2026年8月22日、東京・原宿のSCC千駄ヶ谷コミュニティセンターで開催された「多様な学びを探しに行こう!in原宿2026」が開催されましたので報告します。

主催は、一般社団法人カラフルバード、学び方の違う子の親の会ルピナス、フリースクールみんなのプロジェクト学校の3団体です。

午前は、井上賞子先生(松江市立小学校教諭・特別支援教育士)と岡耕平先生(滋慶医療科学大学大学院教授・公認心理師)による「みたてラボ」ケーススタディ、午後は井上先生による教材づくりワークショップという二部構成でした。

目次

午前|発達障害・学習障害のある子の「みたて」ケーススタディ

午前は、井上先生が実際に関わってきた子どもたちの事例をもとに、岡先生と一緒に行動や学習の背景を読み解いていくケーススタディでした。

正直に言うと、「多様な学び」と聞いて、私はツールの紹介やハウツー中心の講座を想像していました。でも実際は全然違いました。2人の子どもの事例をじっくり掘り下げながら、「その子がなぜその行動をしているのか」を考えるところから支援が始まる、という話が中心でした。

「わがまま」に見える行動の背景にあるもの

一人目の事例では、突然の予定変更や周囲のペースに合わせることが難しい子どもが紹介されました。

本人は一生懸命取り組んでいても、見通しのない変更が入ると動けなくなることがあります。周囲からすると「なぜ今ここで拒否するの?」と思ってしまうような場面です。

でも本人にとっては、それまで聞いていた予定が突然変わることそのものが大きな負担になっていました。

学校は、多くの子どもに向けて一斉に指示を出す場面が多い場所です。その場に合わせることが難しい子にとっては、「拒否」という方法でしか自分の意思を示せないこともある、という岡先生のお話がありました。

また別の場面では、ボランティアの方に手伝ってもらう中で、「本当は自分でもやってみたかった」という気持ちをうまく伝えられず、強い言葉になってしまったこともあったそうです。

表面だけを見ると、「失礼なことを言った」「わがままを言った」と評価してしまいそうです。でも、井上先生が本人の話を一つずつ聞いていくと、その奥には悔しさだけでなく、相手への感謝の気持ちもありました。

気持ちを言葉にするのが難しいと、本人が本当に伝えたかったこととは違う形で相手に届いてしまうことがあります。

そこで、出来事や感情を本人と一緒に整理し、言葉にしていく。そうした積み重ねも支援の一つなのだと感じました。

学習のつまずきも、やり方を変えると変わる

学習面についても、具体的な支援の例が紹介されました。

たとえば、計算を書くスペースが狭くて間違えてしまう子なら、書く場所を広くする。デジタル機器を使った方が繰り返し練習しやすい子なら、その方法を取り入れる。

本人が取り組みやすい形に変えることで、できることが増えていったそうです。

岡先生からは、ただ課題の難易度を下げて「本人のペースで」とするだけではなく、「どうすればその子が学習に参加できるのか」を考えることも必要だという話がありました。

子どものペースを大切にすることと、学ぶ機会を狭めないこと。その両方を見る必要があるのだと思います。

「好き」を入り口にした学習支援

もう一つの事例では、気持ちを言葉で表すことが難しく、他害や物を投げるといった行動が見られる子どもが紹介されました。

井上先生が学習の入り口にしたのは、その子が好きな恐竜や海の生き物でした。「知りたい」「読みたい」という気持ちから文字の学習が広がり、少しずつ文字を使って自分の思いを伝えられるようになっていったそうです。

それまで行動で表していたことを、文字や絵で伝える。

「伝えれば相手に届く」とわかることで、コミュニケーションの方法そのものが変わっていきます。

「できないことを練習させる」だけではなく、その子がすでに持っている「好き」や「得意」を入り口にする。それによって学びやコミュニケーションが広がっていく様子が紹介されました。

「不適応」ではなく、その子は何かに適応している

対談の中では、「不適応」という言葉についての話もありました。

教室から出ていく、活動に参加しない、拒否する。

そうした行動を見ると、「その場に適応できていない」と考えてしまいがちです。

でも、その行動をすることで嫌なことを避けられていたり、安心できる場所に移動できていたりするのであれば、本人は本人なりに別の何かに適応している、と見ることもできます。

「この行動をどうやってやめさせるか」ではなく、

「この行動には、本人にとってどんな意味があるのだろう」

と考えてみる。

今回のケーススタディで、特に心に残った視点でした。

合理的配慮と教育的配慮のちがい

質疑応答では、医療と教育の連携や合理的配慮についても話題になりました。

特にわかりやすかったのが、合理的配慮と教育的配慮を分けて考えるという整理です。

子どもが成長してできることが増えれば、それまで行っていた支援が必要なくなることはあります。一方で合理的配慮は、本人が他の人と同じスタートラインに立つために必要な調整です。

そのため、「学年が上がったから減らす」というものではありません。

また、配慮を受ける本人が、

「自分には、なぜこの配慮が必要なのか」

を説明できることも大切だという話がありました。

周囲が良かれと思って用意しているだけでは、本人が自分で必要な支援を求めることにつながりません。子どもの成長に合わせて、今の配慮が本当に合っているのかを見直していくことも必要です。

井上先生の「なんとなくやっていることを言語化すると、再現性が高くなる」という言葉も印象に残りました。

普段なんとなくうまくいっている支援も、「なぜうまくいったのか」を言葉にできれば、別の場面でも使いやすくなります。

ちなみに会場では、井上先生の本を持参してサインをお願いしている方や、「ネットで見てずっと井上先生のやり方を勉強していました!」と声をかけている方もいて、お二人の人気ぶりに感心してしまいました。

その井上先生ご自身が岡先生のファンで、授業を見てもらったり、岡先生が学研『実践みんなの特別支援教育』で連載している「みたてラボ」の感想をnoteに書いたりされているそうです。実践者と研究者がお互いに刺激し合っている関係が、この日の濃い対談につながっていたのだと思います。

井上賞子先生(note):https://note.com/inoue2021

岡耕平先生(滋慶医療科学大学大学院):https://graduate.juhs.ac.jp/education/faculty/oka/

お昼休み|読み書き支援アプリ「もじソナ」デモ体験

お昼休みには、代読・代筆学習支援アプリ「もじソナ」のデモ体験がありました。

もじソナ(公式サイト):https://mojisona.com/

学校のプリントやテストをカメラで撮影したり、PDFで取り込んだりすると、音声付きのデジタル教材として使えるアプリです。画面上の文字をタッチして読み上げたり、音声入力やキーボード入力で回答したりすることができます。

何よりいいなと思ったのが、教材を特別な形式に作り直さなくても、普段使っているプリントをそのまま取り込めること。

読み書きが苦手な子のためにデジタル教材を用意しようとしても、準備する側の負担が大きいとなかなか続きません。「いつものプリントをそのまま使える」というのは、学校で使うことを考えると本当に助かります。

タブレットというと、ゲームをしたり動画を見たり、仕事で使ったりするものというイメージもありますが、読み書きに困難のある子どもにとっては、学習への参加を助けてくれる道具でもあります。

こういうツールが、もっと自然に学校で使えるようになるといいなと思いました。

なお、料金は先行リリース価格で月額2,200円(税込)。正式リリース後は月額3,828円(税込)になる予定だそうです。初回10日間は、利用者登録1人目のみ・取り込み50ページまで無料で試すことができます。

さらに、この夏は「夏休み応援キャンペーン」として、登録不要・無料ですぐに体験できる機能もスタートしているとのこと。小学生向けの問題から高校入試の実際の問題まで用意されているので、まずはどんな感じか触ってみたい方は、こちらから試してみるのが良さそうです。

午後|学習障害の子を支える算数教材づくりワークショップ

午後は、井上先生による教材づくりワークショップでした。参加者は教員の方が多い様子で、実際に手を動かしながら教材を作っていきました。

今回作った教材の一つが「色分け定規」です。

物差しの細かい目盛りを数えている途中で、「どこまで数えたのかわからなくなってしまう」という子どもの声から生まれた教材だそうです。

目盛りを一定の間隔で色分けすることで、今どこを見ているのかがわかりやすくなります。

実際には透明な定規の裏側から細かく色を塗っていく作業で、なかなか細かい! 井上先生からも、老眼にはちょっと大変、というお話があり、会場も和んでいました。

もう一つは、たし算・ひき算を視覚的に考えられるスライド式の「たしひきものさし」です。

数字や目盛りを動かしながら答えを確認できるので、頭の中だけで数量を操作することが難しい子にもわかりやすい教材になっています。

参加者は厚紙を切ったり、色を塗ったり、ラミネート加工をしたり。実際に作ってみることで、教材の仕組みもよくわかります。

ありがたいのは、完成した教材だけではなく、

「ここは以前うまくいかなかった」 「こうすると作りやすい」

といった試行錯誤まで教えてもらえることです。

学校で教材を一から考えるのはなかなか大変なので、すでに何度も試して改良された教材の作り方や指示書まで共有してもらえるのは、本当に助かります。持ち帰って、ほかの先生にも紹介しやすいのもいいですね。

「うまくできないなら練習あるのみ」ではなく、道具の方を少し変える。

そんな工夫で、学びやすさが大きく変わる子もいるのだと思います。

ICTでできること|GeminiとDropKitで教材を作る

ワークショップの後半では、デジタルを使った教材づくりの話もありました。

Geminiで学習アプリを作ってしまう(プロンプト1行)

驚いたのが、生成AIのGeminiを使ってその場で学習アプリを作ってしまうという話です。

プロンプトは「都道府県クイズアプリ作って」という、たったこれだけ。

実際に画面に映し出されたのは、日本地図をタップして都道府県を学べるアプリでした。県庁所在地クイズ、特産品・名物クイズ、地方クイズ、ランダムミックスと、ジャンルまで選べる作りになっています。タイムアタックやバッジ・レベル機能まで自動で盛り込まれていて、会場からも驚きの声があがっていました。

しかもこれ、大人が作るだけでなく、子ども自身が作ることもできるそうです。

「自分の欲しい教材を、自分で作る」

そんなことが当たり前になる日は、思ったより近いのかもしれません。

DropKit|教材づくりの負担を減らすアプリ

もう一つ紹介されたのが、教材作成アプリ「DropKit(ドロップキット)」です。

DropKit(公式サイト):https://droptalk.net/dropkit/

特別支援教育に関わる専門家たちが開発したiPad用のアプリで、井上先生も開発メンバーとして関わっていらっしゃいます。

アナログの教材は、たくさん作るのが大変ですし、使っているうちに壊れてしまうこともあります。DropKitを使えば、そうした負担がぐっと減ります。

会場では、九九の学習ファイルが紹介されていました。各段がイラスト付きのカードになっていて、読み上げもできる形です。ほかにも、単語の文字を読み上げたり、イラストとマッチングさせたり、最小公倍数など算数の課題を作ったりと、幅広く対応しています。

マッチング、パズル、タイピングなど9種類のテンプレートと、2000種類以上のイラスト・音声素材が最初から入っているので、iPadの操作に慣れていない方でも短時間で教材が作れるようになっています。作った教材はAirDropやメールで、家族やほかの支援者と共有することもできます。

「この子に合う既製品を探す」よりも「この子に合う課題を作る」ほうが早い。そんな発想から生まれたアプリだそうです。

ほか、学びのサポートをしてくれるツールの紹介

算数のつまずきを支える「カイケツしたじき」

会場のテーブルには、「現物をご覧いただけます」と書かれたPOPとともに、算数の学習下敷きが並べられていました。

カイケツしたじき(販売サイト):https://shop.elpis.works/categories/5935369

井上賞子先生と伊藤陽子先生が監修された教材で、ホワイトボードマーカーで書いたり消したりしながら繰り返し使えます。

手に取ってみて「これはいい」と思ったのが、たし算・ひき算の文章題を「言葉のパターン」で整理した1枚。たし算は「あわせて いくつ」「ふえると いくつ」、ひき算は「のこりは いくつ」「ちがいは いくつ」というように、どの言葉がどちらの計算のサインなのかが、手のイラストとセットで視覚的にわかる作りになっています。

文章題でつまずく子の中には、計算そのものはできても「これはたし算なのか、ひき算なのか」の判断で止まってしまう子がいます。そこに手がかりがあるだけで進める子はいるだろうなと思いました。

ほかにも筆算、通分・約分、面積の公式など、小学校の算数でつまずきやすいところが一通り揃っていて、中学生版もあるそうです。

両面分度器|「当たり前に選べる選択肢」に

市販の道具の紹介もありました。

両面分度器 快段目盛(新潟精機):https://www.niigataseiki.co.jp/blog/2025/03/18/pressrelease-3/

新潟精機が井上先生と一緒に開発した分度器で、表面は時計回り、裏面は反時計回り。目盛りが一方向にしか並んでいないので、数字が多くて読みにくい分度器の「迷い」が減らせます。

心に残ったのが、開発の想いとして書かれていた「『特別なもの』ではなく、『当たり前に選べる選択肢』として、誰でも手に取れる商品を目指す」という言葉。

支援グッズが「特別支援のためのもの」という棚に置かれている限り、手に取るのに勇気がいります。文房具売り場に普通に並んでいて、使いやすいから選ぶ。そういう形が一番いいですよね。

まとめ|子どもの行動の背景を見るということ

今回のケーススタディを聞きながら、「見立てる」ということの難しさをあらためて感じました。

「行動の背景を見る」「本人が何に困っているのか考える」。

言葉にするとシンプルですが、学校現場ではいつも十分にできるとは限りません。

私自身、高校教員だった頃を振り返ると、今回の講座で「うまくいかない例」として挙げられていたような指示をしていた場面もありました。

授業、行事、保護者対応、クラス全体への対応。担任には余裕がなく、目の前の行動を見て「わがままだ」「どうして指示を聞かないんだろう」と受け取ってしまうこともあります。

だからこそ、ときどき立ち止まって、

「なぜこの子はこうしているんだろう」

と考える視点が必要なのだと思います。

これは、保護者の方にとっても同じかもしれません。学校から「困った行動がありまして」と言われたとき、「うちの子がすみません」と受け止めてしまう前に、「その場面で、この子は何に困っていたんだろう」と一緒に考えてみる。その視点があるだけで、先生との話し合いの中身も変わってくるかもしれません。

今回の「多様な学びを探しに行こう!in原宿2026」は、支援の出発点にある「見立て」について、あらためて考える一日になりました。(ぴーたん)

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