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LDっ子の受験報告 #1 書字障害と高校受験 by S

『LDっ子の受験報告』は、LDのある子ども達の受験体験談をご紹介するコーナーです。合理的配慮のコーナーで載せきれない、さまざまな方の受験までの道のりをご紹介していければと思っています。

1、はじめに

 息子15歳。中学校3年生。好きなものはゲーム。苦手なのは数学。書字障害と診断されたのは割 と早くて小学3年生。全く書けないわけではない。ものすごく時間がかかるし、下手くそな字だけどなんとか宿題をこなし、授業についていく小学校生活を過ごした。ただ、どこかの段階で「他のみんなとは違う学び方」にしないと本人が辛くなるばかりだなあと思っていた。

2、中学校での合理的配慮

入学した区立中学校では、事前の予想通りに、「授業中のノートテイク」「テスト前のワーク 類の提出」に大苦戦していた。書くことで疲労し、理解することや考えることが疎かになるとい う状況を見て、これは変えなければと考えた。本人なりに一生懸命書いたテストの答案に、ある 先生が「誰でもわかる字できちんと書かないとダメです」と赤字を入れたのもきっかけになっ た。ダメなのはこの子に対して整っていない環境でしょうよ、と。  まずは担任の先生に、授業や試験はもっと本人に合ったやり方に変えたいと相談。在籍校は区 内の支援拠点校だったこともあり、特別支援コーディネーター先生や保健の先生には知識もあり 医療機関の紹介や合理的配慮の調整をしてくださった。この時受けたWISC-IVでは、言語理解と処 理速度の差が60近くあり、確かに板書をノートに書くとか明らかに無理って感じだった。そりゃこんな字にもなるな、と。

 中2からはさっそく

・定期テストは別室でPC入力。時間も1.2倍に延長。
・毎日の授業はタブレットで写真撮影可。
・提出物は、PC仕上げ可。

ということになった。環境は整ったけれど、本人の気持ちは「自分だけ写真撮ったりしたくな い」「友達に理由を聞かれた時になんて答えたらいいかわからない」とちょっと難しい状態だっ たりした。そもそも膨大な提出物を、全てノートアプリに取り込んでテキスト入力するのは現実 的ではなかったし、授業後に出す振り返りプリントなどはタイムリーに対応できないこともあっ た。PCで書くようになって作文は褒められることが多くなり、そこは本人の自信につながったよ うだ。ただ試験はPC入力になっても、点数が急上昇するわけでもなく、成績もやる気も低め安定 のままで受験生になった。

3、高校探し

中2の夏休みの東京国際フォーラムでの「私立高校展」を手始めに、息子を受け入れてくれそ うな高校を探した。この時点で入試での合理的配慮は求めないことに決めていた。理由は、私立 高校で配慮入試をしてくれるところはほとんどないであろうという予想と、手書きで受けていた 塾のテストで偏差値45−50くらいあったので丸腰でもどこかは入れるところがあるだろうと思って いたからだ。なので聞いておきたいことは、入学後の配慮だ。中学校でやっているタブレットで の撮影やPC入力試験は高校でも継続したい。まずは家から通えそうな距離で、今の息子の成績で も入れそうな高校のブースに片っ端から立ち寄った。この段階では実際の配慮実績はなくてもよ く、息子の事例を第一例として検討する可能性がありそうかを確認した。また、話を聞いた教員 の主観であるのか学校としての見解であるのかも大切だと思った。学校説明会も含めて複数回話 を聞くと、教員によって言うことが一貫していないこともよくあったからだ。  色々と話を聞いていくと

「PCで提出物は、認めていません。不公平になるからです」
「書字障害?みんなと一緒に活動できないと困ります」
「一人だけ違うことはちょっと…」
というような心底がっかりするようなことを言う高校もあれば
「今、PC提出している生徒もいますよ」
「その子にとって、いい学びの形を探しましょう」

と言ってくれる学校もあった。

4、志望校決定

中3の夏休み、いよいよ受験校を決めていきたい時期、息子には行きたい高校があった。体験 授業での国語や英語が実践的でとても面白く、こじんまりした共学で在校生の雰囲気もいい。家から自転車で行けそうだし、偏差値帯も頑張れば届きそう。ところが、入学後の合理的配慮について聞いてみたら全く理解がなかった。何度も、色々な先生に聞いてみたが「うちの学校はみん なで一緒に同じことを頑張る学校です」「一人に特別なことはできません」「校長の方針でそう 言うことはしていません」と言われるばかり。来年度からの合理的配慮の法制化の話をやんわり しても通じない。  入試を突破してここに入れたとしても、ここまで理解がないと先が多いやられる。息子には 「ここはクソだからやめましょう」「あなたにはもっとふさわしい素晴らしい行きたくなる高校 がきっとある」と話した。
15年の子育て、悲しい瞬間ベスト5に入る出来事だった。 

さて、改めて行きたい高校を探さないと。今までの経験で「比較的小規模」「大学合格実績上げにそこまで必死ではない」「多様なコースあり」な学校がわりと合理的配慮に前向きな印象があった。いくつか行った学校説明会の中で、普通科なんだけど学校設定科目の時間を使ってeス ポーツの授業をしている学校があった。もともとゲーム好きの息子が「ここなら通いたい」とグッ と前のめりになった。私自身も、その学校の授業体験は毎回内容を変えて工夫があるところや、 学園祭のちょっと緩い感じの楽しさがいいなと思った。
合理的配慮や書字障害についても色々な 先生と話したが、どの先生も頭から否定することなく「一緒にいい方法を考えていきましょう」 「小さい学校なので個別の配慮がやりやすい」などお話ししてくれた。何の確約もない状態では あるけど、色々傷付いていた母子には染み渡る優しい言葉だった。  そこでこの学校に入るために、まずは推薦入試のための内申点を目指すことにした。息子は基 本的にオール2に近く、この状態ではまず出願できない。一つでも3を増やせば可能性がある。

 たぶん3に近いのは英語だ。と言うことで2学期のテストは英語に全振りして勉強。提出物も英 語はしっかり。なんとか平均点近くまで持っていき多分お情けの3を頂いた。  もし、推薦に出せなかったとしたら、一般で受けるつもりでいた。一般はなんと2教科(英国 OR英数)入試でしかも全てマークシート。つくづく書字障害の息子に合ってる学校だ。そして、 もし一般でもダメだったら。定員割れで全入になるであろうある都立を受けるつもりでいた。息子 はそれでもいいって言ってるけど、興味がない学校で3年間頑張れる気がしない。留学させたりし た方がいいんだろうか。と私自身も悩みまくっていた。

5、推薦入試

  規定の内申点のギリギリでなんとか出願した息子。内申書に書いた特記事項は、英検3級、ス キー検定3級、部活の区大会準優勝(ほとんどベンチにいたけど)、納税の作文入賞(もちろん PCで書いた)、校外の友人たちとの途上国支援のボランティア活動。この活動は国際機関の表彰 も受けている。ちょっといい感じに盛れている感じ。  推薦入試の面接に向けて、親だけではなく家庭教師の先生や塾の先生にも面接練習をしていた だいた。とにかく「具体的に」「言いたいことは漏れなくでもコンパクトに」話す練習をした。 

そして当日。校門まで一緒に行って息子に「ダメでも一般で受ければいいからね」と弱気な励 ましをして送り出す。保護者用の控室なども用意されていたようだ。  2時間後、面接が終了した息子から来たメールによると聞かれたことは、「交通手段」「高校 でチャレンジしたいこと」「中学校生活で学んだこと」「ボランティア活動を始めたきっかけと そこでの役割」と事前練習した内容ばかりの内容だったようだ。夕方6時の発表で合格を確認。息子の満面の笑顔を久しぶりに見たような気がした。なんとか終了した高校受験。息子のことを受 け入れてくれた高校にただ感謝。入学後は今の気持ちを忘れずに息子にはしっかり高校生活を楽しんでもらいたい。

6、入学前に

   卒業式の少し前、担任の先生から「高校に引き継ぐ特性や合理的配慮についての書類を作成しています。これからも同じような感じでやってもらえるようによく書いておきます」と連絡があった。高校でも、息子にとって良い学びの環境も整えるために私もがんばろう。将来的には、親ががんばらなくても一人一人に一番いい学び方が実現する体制になっていくことももちろん願って いる。

(S)

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